アスペルガー症候群&自閉症の子どもとのコミュニケーションのポイント
アスペルガー症候群や自閉症をもつ子どもとのコミュニケーションに際して最も配慮しなければならないことは、その子どもが「自尊心」を保持できるように、対応・支援をすることです。
アスペルガー症候群や自閉症をもつ子どもは、どうしても家族や他人から注意されたり叱られたりすることが多くなり、自尊心が低くなってしまいがちです。
そのため、子どもに対してネガティヴなメッセージを送らずに、自信を持たせるような対応をすることが、一番重要なコミュニケーションのポイントになります。
またアスペルガー症候群を持つ子どもは、他者が近くにいると、精神的な不安や脅威を感じることが多いです。
同年代の子どもと比較して、対人交流に困難を感じていることを、まず理解してください。
子どもによって、対人交流の方法やパターンは異なりますので、まずはその子どものペースに合わせてください。
こちら側の対人交流の要求レベルを、一方的に押し付けるようなことがあってはいけません。
なお、アスペルガー症候群や自閉症の子どもは初対面の人との交流は苦手なので、はじめに担当者となじむ時間を取り、時間をかけて人間関係を作っていくようにしましょう。
また「どのように行動したらいいか分らない時に、他人に質問する」ということをしないことも多いので、いきなり「見知らぬ女性の胸を触る」などの、突発的な行動をとることもあります。
コミュニケーションの際のポイントは、以下の通りです。
1.言葉はできるだけ簡潔にする
2.一度にひとつの指示を与えるようにする
3.表情や動作は、単純明快なものにする
4.応答する時間を与える
5.視覚的なヒントを付け加えて、理解を助ける
6.コミュニケーションを図ろうとする子どもの試みをきちんと察知して、対応する
7.子どもがコミュニケーションをとりたいと思うような状況を作る
◆アスペルガー症候群の子どもに対する指導の注意点
アスペルガー症候群の子どもに対して教育や指導を行う際の重要なポイントは、「他人とのコミュニケーションに必要な、アスペルガー症候群特有の技術やルールを教えること」だけでなく、「そのアスペルガー症候群特有の技術やルールを、『胸を張って使うこと』を教えることです。
アスペルガー症候群をもつ子どもの中には、「自分が本当に思っていることを言うと、必ず周りの人とトラブルになる。だから、いつも人前では『二番目に思ったこと』しか言わない、というルールを使っている」という子どももいます。
もちろん、社会生活を円満に送っていくためには、そういったルールを身につけることも重要です。
ですが、そのルールを毎日使うことによって、「自分は本音で生きることのできない人間なんだ」「自分は出来損ないの人間なんだ」と思うようになってしまったら、それはその子の自尊心にとって、大きなダメージになります。
よって、ルールそのものを教えるだけでなく、胸を張って、自信を持って、恥ずかしがらずにそのルールを使ってもいいんだよ、ということも、忘れずに教えてあげてください。
◆自閉症の子どもに対する指導の注意点
自閉症の人は、他の人が全く性的な刺激・興奮を感じない物事や物品、香りや物の形に対して、性的な刺激や興奮を感じることがあります。
トイレの水を流す音や、鉛筆で紙に文字を書く音などに性的な刺激を受ける人もいますし、スケートブーツや長靴を見て、性的に興奮する人もいます。ぬいぐるみを使って、自慰行為をする人もいます。
逆に、他の人が通常性的な刺激・興奮を受ける物事に対して、全くそれらを感じない場合もあります。
例えば、女性の脚に強い興味を示す自閉症の男の子がいて、周囲の人は「女性の脚に性的な興味をそそられているのだな」と判断していたのですが、実際はナイロンストッキングの質感や構造に興味があっただけ、などということもあります。
女性教師に対して、「一緒にお風呂に入りたい」という男の子がいて、教師本人は「女性の裸に性的な興味を覚えているのでは」と判断していたのですが、実際は「お風呂の水位がどれだけ上がるのか、調べてみたかったから」という純粋な科学的興味からの発言だった、ということもあります。
こうした一般の健常者との性的興味の食い違いは、日常生活の様々な場面において対人関係、コミュニケーションのトラブルとなることがあります。
そのため、自閉症の子どもに接する際は、こうした特徴を事前に理解しておく必要があります。
また、一部の自閉症の人には「壁に頭をうちつける」「自分自身に噛み付く」などの自傷行為が見受けられますが、これが自慰行為と組み合わさって、不適切な道具や器具を自慰行為に利用することで、性器を傷つけてしまうことがあります。
なかには、陶器の破片やガラスをペニスにこすりつけたり、膣内に挿入しようとするケースもありますので、注意が必要です。
性器の触感を低下させる薬のせいで、自慰行為の際に強い力が必要になり、結果として性器自体を傷つけてしまうこともあるので、自傷を伴う自慰行為が多い場合は、服用している医薬品にも注意を払ってみてください。
◆スキンシップについて
子ども時代にスキンシップが十分でなかったり、十分にスキンシップをしてきたつもりでも、本人にそれを受け入れる力が備わっていなかった場合、引き続き、日々のコミュニケーションの中で、スキンシップを取り入れることが有効です。
障害児学級では、「1日1回、先生からぎゅっと抱きしめてもらうと、落ち着く」という児童の例や、他人から触られることを嫌がっていた自閉症の児童が、スキンシップを伴う授業を通して、徐々に他の児童や教師と手をつなげるようになっていった、という例が、数多くあります。
適切なスキンシップは、人間関係や生活の場を広げるための良いきっかけになるので、成長に合わせて、握手、肩タッチ、指切りげんまんなどのスキンシップを取り入れていくとよいでしょう。
◆抱きつきについて
中学・高校段階において、子どもが異性に対して抱きつく行動をとる場合、えてして「性的問題行動」とみなされ、抱きつきを禁止された上に、厳しく注意されることが多いです。
しかし、「抱きつきを禁止するだけの指導」では、ほとんどの場合、効果はありません。
自閉症の場合、中学・高校段階において、ようやく人間関係に関心が出てきて、その結果として抱きつきという形で、他者とのコミュニケーションをはかろうとする、ということがあります。
それは決して「性的問題行動」ではなく、心の不安をなくすため、そして他者とのコミュニケーションを通して、自己肯定感をはぐくむために必要な行動です。
したがって、「学校では抱きつきは禁止」というように一律規制してしまうと、本人にとっても大きな精神的ストレスとなり、卒業して社会に出てからも、異性への抱きつきを繰り返すようになる可能性もあります。
対応策としては、可能であれば「抱きつかれ役」専門の職員・教師をつくり、本人の抱きつき欲求を全面的に満たしてあげることです。
「いつでも抱きつける存在がいる」という精神的な安心感を得ることができれば、時間を経るにしたがって、徐々に抱きつき回数が減ってくる場合もあります。
もちろん、子どもの回りにいる人全員が、抱きつきを受け入れる必要はありません。
「受け入れる人」「拒否する人」の両方がいる方が、子どもにとっても良い学習にもなります。
なお、抱きつきを拒否する場合は、あくまで抱きつかれそうになった本人が「ダメ」ということが肝心です。
本人ではなく、周りの人が代弁してしまうと、抱きつこうとした子どもにとっては、なぜ抱きついてはいけないのかが分かりにくくなってしまいます。
◆凝視について
アスペルガー症候群を含めた自閉症スペクトラムには、相手をじっと見る=「凝視」するクセのある子どもがいます。
この「凝視」は、相手が気分を害したり、脅かされているような感じを受けることがあり、特に女性が相手の場合だと、「性的な対象として見られている」と勘違いされることがあるので、相手の気分を害さないように、説明や工夫をする必要があります。