※私が実際に体験したお話ではありません
私のクラスにはある女の子がいた。
でもその子は病気がちでなかなか学校に来なかった。
たまにきても3時間目には帰ってしまう。
『休めていいな、ずるい』
そう思っていた。
私はその子の家が近かったので
連絡帳を毎日届けていた。
担任から連絡帳を預かってその子のお母さんに届けて
また担任に預けて……ってその繰り返し。
正直めんどくさかった。だって話したことない子だし。
それを何回か繰り返した頃、私は不意に連絡帳の中身が気になった。あの子は何を書いているのだろう。
連絡帳には一日の振り返りがあったのだ。
ページをパラパラとめくってみる。
適当にページをとめ、華奢なあの子のイメージに合う
可愛らしい字で綴られている振り返りをみてみた。
『早く学校に行きたいな。今日は一日中寝ていました。外から楽しそうな女の子の声が聞こえた。もし私が学校に行けていたらあの子達の輪に入れたのかな』
正直、ショックだった。
私は彼女のためにふと思いついて筆箱から鉛筆を取り出した。
『元気になったら遊ぼうね。待ってるよ!』
次の日、いつものように連絡帳を届けた。
彼女の母はこういった。
『ごめんね。もう連絡帳は届けなくていいからね』
私は馬鹿だった。
でも、この言葉の意味だけはわかった。
頭が真っ白になって現実か夢かもわからないまま
目の前で崩れ落ちる彼女の母をみつめた。
視界がぼやけていく。
『ごめんね、今までありがとうね』
そう言って手で自分の顔を覆い尽くす彼女の母。
ああ___視界がぼやけてるのは、
涙のせいなんだ。
私はやっぱり馬鹿だった。
その時今起こっていることが現実であることを理解した。
私は泣いた。
今まで先生に怒られたって、叩かれたって流さなかった涙。
止まらなかった。
彼女と遊びたかった。彼女に会いたかった。
なぜだろうか。話したこともないあの子の存在を
私はどれだけ支えにしていたんだろう。
連絡帳を届けるのは面倒だった。
あの子のことを理解していなかった。
でも、彼女は私にとってかけがえのない存在だった。
彼女の母はそっと私に連絡帳を差し出した。
10年後、私は立派な大人になった。
あの時の馬鹿な私は社会人になったのだ。
今まで辛いことがたくさんあった。
心が折れてしまうこともあった。
でも、あの時彼女の母がくれた連絡帳を開くと
そこには彼女が私に向けて残した最期の言葉があった。
『ありがとう、きっといつか遊ぼうね。』