ひどい仕打ちとは、騒ぐな、部屋からでるな、窓を覗くな、部屋でしゃべるなだったのを覚えてる。なにより子どもがいるということを知られてはならなかった。身体中にひどい傷を負った1人の子どもが地獄を抜け出したことによって、残されたぼくらはもっとひどいことをされた。ある日のこと。彼女がつれてきた男が、これからぼくらの父親になるといった。つれごってのは虐待されやすいらしいから、ぼくたちはそういうことされるんだっておもった。とうとうしぬんだなって。その男はぼくらを逃がしてくれた。電話するんだとお金をくれて公衆電話の使いかたをメモしてくれた。逃げて助けてくれる大人を探せと。そのあとあの女がどうなったかはわからない。
…まぁ、これはただの作り話。いや聞いた話か。虐待をされてるやつは、自分が虐待をされてるなんて思わない。むしろ親が大切だとか、弟が、妹がとかいろいろ言い訳して自分の傷から逃げる。防衛本能だ。だかな、その防衛本能はいずれ自分を地獄に落とす。逃げることが大切ってことだ。
